多様性の理解を目的に、LGBTをテーマとした児童小説。障害者に関するバリアフリー教育は進められているが、LGBTについて子どもが知識を得られる場は少ない。性や恋愛を理解できる年齢になったら、その多様性と正しい情報を知らせることが、マイノリティを理解する心を育むことにつながる。
たとえば書類の性別欄に「男・女」とあるとき、ほとんどの人は何も考えず、どちらかに○をつける。でも、「どっちだっけ?」と手にしたボールペンの動きを止めてしまう人もいる。
わたし、俺、ウチ、僕。
男性の外見だけど「僕」という呼び方に違和感がある人、女性の外見でも「俺」という一人称がしっくりくる人。自分の呼び方は自分で決められるけど、生まれたときの性別は決められない。
「LGBT」という言葉ができて、多くの人が、どうやら世界は「男」「女」の二つだけで成り立っているわけではないらしいぞ、と徐々に頭でわかり始めてはいるが、まだまだ偏見はある。
もしも、自分の身近に「男」とも「女」とも決められない友人がいたら? しかも、友人も自分の生き方について、どうしたらいいかわからず混乱していたら、あなたはどうその友人に接するだろう?
この『にじ姫さまのいるところ』に収められた五編。いずれもやさしい気持ちにあふれた話なれど、友人たちとの日常に起こりうる誤解、対立、自問、和解を鋭く切り取り、フェアな眼差しで「LGBT」を描いてる。
作家 万城目 学